数理音響学研究室

音源信号の再帰的補正処理によるスピーカの非線形歪低減

キーワード:スピーカ, 非線形歪, 非線形システム, 高調波歪, 混変調歪, 逆フィルタ, 再帰処理

概要

スピーカの非線形歪を高精度に低減する技術を開発した。
非線形歪は、入力信号に存在しない周波数成分が音として出力される歪で、従来のグラフィックイコライザなどによる音質補正処理では補正できない歪である。
今回、開発した歪の低減処理は、計算量の少ない単純な処理を再帰的に実行することで音源信号を補正するもので、安価なPCでも十分実行可能な処理である。一般音楽を用いた歪の低減実験では、非線形歪を15~20dB程度低減できることを確認した。

本研究グループでは、さらなる歪低減制度の向上や、スピーカ以外のデバイスへの適用、スマートフォンアプリの開発など、基礎から応用まで様々な取り組みを進めている。また、音の計測や評価について、歪の少ない音場再現システムの開発を進めている。

アピールポイント

本技術は、従来の音質補正処理と組み合わせて、大幅な音質向上が可能である。また、従来では非線形歪が増加するために補正が困難であった低周波域での音質補正が可能となることから、出力音域を拡大できる。音源信号を補正することから、音声出力が可能な組み込み機器等で利用する場合には、ROMに記録する音源データを補正処理後のデータに書き換えればよく、歪低減のために追加のメモリやCPUが不要であり、製品のコスト増加なしに音質を改善できるメリットがある。

利用・用途、応用分野

  • 子供向け玩具
  • 携帯音楽プレーヤ(スマートフォンなどを含む)
  • カーオーディオ
  • ホームオーディオ
  • 音場再現システム
  • 野外広域放送
  • 音響特性計測システム等との共同研究、受託研究を希望

実験例

補正前

7回補正後

補正前に比べ、補正後はクリアな音質になっていることがわかる。

音源は、サンプリング周波数は44.1kHz、量子化ビット数16bitでWAV形式となっており、RWC研究用音楽データベース(クラシック音楽)を利用した。

グラフ


図1. 歪レベルの推移
長い入力信号に対する補正は7回まで歪レベルが減少することを確認した。
図1に示すグラフは歪レベルの推移を表したグラフであり、横軸が補正回数(回)、縦軸が歪レベル(dB)である。横軸の0は補正前を意味する。
補正前と7回補正後の歪レベルの差は16.3dBであった。また、出力レベルの差は0.4dBであり、出力レベルはほぼ一定に保たれていることを確認した。


図2. 歪の周波数特性
図2に示すグラフは歪の周波数特性である。上段が補正前、下段が処理中で最も歪レベルが小さくなった時点のものである。横軸は周波数(kHz)であり縦軸は歪レベル(dB)である。
このグラフより0~5kHzの間は歪の大幅な減少が見られる。5~10kHzは前半部分の歪が大きく低減しているが、後半部分は逆に増加しているところがある。
また、15kHz付近は補正前より歪が大きく増加している。これは主要な帯域(0~5kHz)を補正することにより発生した逆歪の高調波成分が新たな歪として加わったものと考えられる。
しかし、増加した15kHz付近で最も歪レベルが高い点でも0dB程度であるため、聴感上の影響は少ないと言える。
以上の結果から、長い入力信号に対しても時間領域処理における非線形歪の低減は可能であり、その低減量についても入力信号が短い場合と大きな差はなく有効であることがわかる。

関連情報

担当者
中島 弘史(情報学部コンピュータ科学科 准教授)
三好 和憲(情報学部コンピュータ科学科 教授)
分野
電気・電子、情報・通信
知的財産権
特許出願中
関連論文
加藤 優基,中島 弘史,三好 和憲,”音源信号の再帰的補正処理による非線形歪の低減法とそのスピーカシステムへの適用” (第27回 信号処理シンポジウム, 電子情報通信学会, B2-4, 351-356)